佐々木先生には、前3回のインタビューで、留学時代や野村証券グループでの経験、そして野村證券を退職した後に勤めたホテルオークラでの経験についてお話いただきました。また、大倉邸で中国同盟会が設立された事実や、2019年8月に日中友好の象徴として記念碑が建立された経緯についてもご紹介しました。
今回は、大倉文化財団が中国・北京大学に3万冊近い中国古典文庫を譲渡したエピソードやそれにまつわる裏話をお伺いしました。ぜひご一読ください。
■プロフィール
名前:佐々木芳邦
• 中国金融研究会 会長
• 在日中国人ビジネスマンの会 会長
• 元北京大学日本校友会会長
• 1973 北京大学東方言語学部日本語学科入学
• 1976 北京大学東方言語学部日本語学科卒業
• 1976 内蒙古自治区科学技術情報研究所入社
• 1978 南開大学日本語教育室へ転職講師に
• 1980 日本へ留学日米会話学院他にて勉強
• 1981 上智大学経済学部経営学科入学
• 1985 上智大学経済学部経営学科卒業
• 1985 野村證券株式会社中国室入社
• 1988 グループ会社野村・中国投資株式会社へ出向
• 2010 野村・中国投資株式会社を退職
• 2010 ホテルオークラ事業本部へ就職
• 2020 ホテルオークラ管理本部退職
• 2021 TEN法律事務所顧問就任
• 2024 徳恒律師事務所東京オフィス顧問就任
大倉財団が北京大学に漢籍の譲渡に関するエピソード
━━━前回は、大倉邸で孫文の中国同盟会が設立され、現在ホテルオークラに中国同盟会の記念碑が建立された経緯に関するお話を伺いました。ご紹介いただきありがとうございました。
今回は、大倉文化財団が中国の北京大学に3万冊近い中国古典文庫を譲渡したエピソードをぜひお聞かせください。
佐々木先生:
大倉財団は、3万冊近い中国古典文庫を北京大学図書館に譲渡しました。これらの書籍には、宋、元、明、清の4つの王朝時代のものが含まれており、日本語では「漢籍」と呼ばれています。大倉文化財団の理事長は、最初に私の意見を求めてきました。
北京大学はどんな大学?
大倉文化財団の理事長は、私に「北京大学が漢籍を買いたいと言ってきた」とのことでした。しかし、北京大学はどんな大学なのか、売っていいかどうかと私に尋ねました。
北京大学は中国で最も影響力が大きく、質の高い大学です。日本でいうところの東京大学に相当します。北京大学以外にも買いたいと申し出るところはいろいろありましたが、当然ながら北京大学が一番いいと推薦しました。
北京大学:中国学術の象徴と国際的な架け橋
北京大学は1898年に北京帝国大学として創立された中国初の国立大学であり、中国では教育の最高権威を誇る大学でした。
1949年の中華人民共和国が成立して以来、文理両面の基礎教育研究を行う総合大学として発展し、1978年の中国改革開放により新時代を迎えました。
2000年には北京医科大学と合併し、科学、工学、医学、農学、人文科学、社会科学などの分野における成長に向けて準備が整いました。
現在、人文科学、社会科学、経済経営学、理工学、情報技術工学、健康科学の6分野に渡り、55の学院と学部、60の研究機関、および10の付属病院で構成されています。学生数は48,600名以上(留学生約2,500名を含む)、教職員数は12,600名以上で、中国科学院と中国工程院の学者123名以上を含みます。
北京大学は優秀で創造性ある学生の揺りかごであり、最先端の科学技術と知識革新人材の主要な供給源であり、国際交流の重要な架け橋としても位置付けられています。
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北京大学公式ウェブサイト
貴重な資産を低価格で売却:100年間の保存費用
佐々木先生:
その後、大倉財団は北京大学に漢籍を売却しました。私から見ると、その金額はほとんどゼロに等しいと思います。記憶では18億円(約1.2億元)だったと思います。 私の感覚からすると、この金額は単なる大倉集古館における100年間の保存費用に過ぎないと思いました。因みに譲渡契約も私が作成しました。
貴重な書籍の維持管理:100年の保存作業とコスト
佐々木先生:
書籍の管理には定期的な除湿や温度の維持、消毒が含まれています。消毒には定期的に毒ガスが使用されるようですが、これはネズミなどの害獣を排除するためのものであり、誤って入った場合には人間も危険にさらされます。これらの作業によって、100年間にわたって本を保存してきました。人件費や維持費などを考えると、おそらく18億円を下回らないでしょう。
文化遺産の譲渡:大倉文化財団の配慮に感謝
佐々木先生:
現在、これらの漢籍は北京大学図書館に収蔵されています。中国国内では漢籍の取引が高額で行われる中、大倉文化財団は北京大学図書館に3万冊近い漢籍を低額で譲渡しました。本来ならば、取引された金額の数倍で取引されるべきだったと私は思います。
まとめ
大倉文化財団の北京大学への漢籍譲渡は、貴重な中国文化遺産の里帰りとなりました。漢文を読める学者が年々減っていく日本で保存し続けるよりも中国へ返したほうが価値を活かすことができると考えたからです。蔵書は私有物ではなく人類共有すべきものだという素晴らしい考え方でした。100年経っても新品に近い保存状態を見ると、彼らの文化遺産を大事にする気持ちに感銘を受けます。これらの漢籍は、北京大学図書館に収蔵され、中国の歴史と文化の一部として永遠に保存されるでしょう。
感動するべきは、大倉財団の文化遺産に対する姿勢です。漢籍の市場価格よりもはるかに安い価格で譲渡しましたが、それは善意そのものです。また、後世に残すために徹底した保存管理を行ったことは驚くべきことであり、感謝するべきでしょう。
今回は大倉文化財団が中国の北京大学に漢籍を譲渡するエピソードについてお聞きしました。
【ご参考記事】
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■ライタープロフィール
名前:姜春姫(きょう・しゅんき)女性
「医・職・住」ラボでは、グローバルな視点で、日本と中国との高齢者が直面する医・職・住の問題を提起し、特に日本に住んでいる外国人の問題を提起する。
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