中国の高齢化社会と介護の現状―日中比較論


中国は現在、日本と同じく高齢化が急速に進んでいます。それに伴い、介護のあり方に関する議論が高まっています。今回は中国の高齢化社会と介護の現状を確認し、日本の介護と比較検証したいと思います。

中国は現在、少子高齢化による社会問題が深刻


1979年から2015年まで、中国では人口増加を抑えるために「一人っ子政策」を行いました。これが原因で、今は少子化が進むとともに高齢者が増え、現在の人口構造に大きな影響を与えています。

中国の高齢化の状況

中国の高齢化はどれぐらいのスピードで進んでいるのでしょうか。
一般的に、ある国の人口の中で65歳以上の人の割合が7%を超えたら「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」といわれています。そして、この「高齢化社会」になってから「高齢社会」になるまでの間、つまり65歳以上の人の割合が7%から14%に増えるまでにどれだけの時間がかかったのかを比べることで、高齢化のスピードを測ることができます。
中国は現段階ではまだ「高齢化社会」で、65歳以上の割合は14%には達していません。しかし、2025年には14%に達するとみられており、2002年に7%を上回ったので、この増加にかかった時間は24年。ちなみに、日本は25年なので、中国の高齢化は日本とほぼ同じ速度で進行しているといえるでしょう。ですが、ヨーロッパ諸国と比べるとその差は歴然。イギリスは46年、ドイツは42年、スウェーデンは82年、フランスに至っては114年かかっています。

急速な高齢化はアジア諸国に共通する問題

高齢化が緩やかに進行すればするほど、それの対応策もゆっくり、時間をかけて考えることができます。日本や中国のような急速な高齢化は、この二国だけではなく、他のアジア各国でも同様の現象が見られます。

高齢化社会の中国で急拡大する介護ニーズ


人口超大国の中国は急速に高齢化が進んでおり、介護のニーズや関連市場もまた急速に膨らんでいます。
現状(2019年)、中国の人口約14億人のうち、65歳以上が約2億人、要介護状態の人が4300万人。10%台の高齢化率はこの先も右肩上がりで上昇し、大きな介護ニーズが発生することは確実です。中央政府は2016年、介護保険を試験的に導入して上海、青島など15都市を先行地域に定めて対応を急いでいます。

中国の介護事情

介護保険の実施前は、事業者側は国から最低限の補助金だけを受け取っていました。運営収支はトントンか、場合によっては赤字に陥っていたのに、実施後は事業の収支構造が安定するようになり、「利用者の満足や家族の負担軽減効果ははっきり上がっていました。
とはいえ、中国の介護サービスはまだまだ手探りに近い状態。事業資金を出すのは金融やITなど異業種から参入した企業が目立ち、彼らからは、豊富な先行事例を持つ日本に「学びたい」「運営を委ねたい」という声が多く上がっています。
たとえば、日本で介護の柱となっているケアプランをどう作成し、どう実行し、どう評価するか。プランの中心となるケアマネジャーはどう育成すればよいか。
高齢化や介護先進国である日本の事業者との提携を望む声も高まっていますが、現場では日中間の考え方のミスマッチも少なくないです。
巨大な中国の介護市場にうまく参入するには何が必要なのか、考えさせられます。

日本と中国の介護制度の違い


日本の介護事業者は、介護保険などのしっかりとした社会保障制度を基礎としてビジネスモデルを確立させてきました。ですが、中国ではそのような制度がまだ未整備のため、全く同じことをやろうとしてもうまくいきません。
また、日本とは異なり中国には介護施設の人員配置基準がまだありません。
介護職員1名につき、日本の2~3倍の入居者のお世話を行わなければならないケースも珍しくなく、日本企業はこのような施設を相手に、コスト面で厳しい状況におかれているのです。
さらに、決定的な違いは日中間における介護に対する考え方の違いです。
日本の介護は、目標が「自立支援」。食事やトイレなど日常生活にかかわることをできる限り入居者が自分でできるようにすることを重点においています。ですが中国では「高いお金を払っているのだから、身の回りの面倒はスタッフがみるべきだ」という考えが根強く、日本式介護との間に摩擦を生んでいます。
このような摩擦を解消するため、日本の介護の考え方への理解を深める必要があります。

中国介護の今後


現在の中国では、高齢者のケアの多くを病院に頼っている現状があります。それが、介護業界の未熟さにもつながっているのでしょう。
日本でも以前は「社会的入院」といって高齢者を病院の中に押し込んでしまうことはよく見られました。しかし、現在ではそのような考え方はもう一般的ではありません。
日本がグループホームや施設の個室化を進め始めてからまだ、20年も経っていません。日本をはじめとする世界的な「自立支援」という介護サービスのあり方に乗っていければ、中国の介護は大きな変容を遂げることになるのではないでしょうか

日本の介護に学びたい
「こうした面で、日本側が自分たちのノウハウを、中国側が受け取りやすいように伝えてあげることができれば、『介護の輸出』が本格化し、大きなビジネスチャンスも見込まれるでしょう。その際、最も留意しなければならないのは『日中の違い』です」。

中国はいま世界各地の介護の先行事例を猛研究
さらに中国はいま、日本だけでなく世界各地の介護の先行事例を猛烈に研究しています。日本式の介護手法はどうも中国に合わない、たとえばオーストラリアのやり方を基に中国式のケアを考えようという動きも生まれないとは言えないでしょう。

中国側に日本への期待感は強い
中国の高齢化や介護ニーズの急拡大という事態は、日本にとっても自分たちが築きあげてきたケアの技術や理念を再確認する好機ではないでしょうか。たとえば、『人間の尊厳』を重視するケアは日本が誇ることができ、中国に伝えるべきものでしょう。
誇るべき介護の技やシステム、理念がある日本だけに、いまは日本への期待感が中国側には強いです。介護関係の方々には、ぜひ中国のニーズや国情をリアルに知っていただければと思います。

参考:ネット、介護プラス、日中福祉プランニング、养老运营消消乐。

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