周先生は、日本と中国の両国で中医師の経験をもつ、中医のプロフェッショナルです。日本に来て29年になりますが、最初のころは日本語を勉強しながら、子育てと中医学の普及活動に奮闘していました。本日は、第一線で長年患者さんの治療に携わる周先生をお訪ねし、日本で中医学の道をずっと突き進んでこられた原動力はなにか、直接インタビューをしてきました。どうぞご覧ください。
■プロフィール:
・周 軍(しゅう ぐん)
・1959年、中国北京生まれ
・中国国家資格:中国中医師
・新日本漢方株式会社 取締役
・漢方養生堂 店長
・日本漢方推進会 本草薬膳学院、中医臨床研究会講師
・日本中国伝統医薬学会理事 、北京中医薬大学日本校友会理事
世界中医薬聯合会生殖医学会理事、世界中医薬聯合会治未病学会会員
・著書:
『後天の本』(北京中医雑誌)
『上手な癌との付き合い方』(文芸社出版)
『中医内科学』(たにぐち書店)
家族3人で日本へ
━━━周軍先生はいつ日本に来たのですか?そのきっかけを教えてください
周軍:1992年に主人の日本留学が決まったので、一緒に来ました。最初は日本語を勉強しながら、日本振興協会の漢方相談薬局と自然健康センターで、中医学の普及活動をしていました。
中医学と西洋医学の根本的な違いは?
━━━先生は中医のプロフェッショナルです。中医と西洋医学の違いは何ですか?
周軍:
【西洋医学】
西洋医学は現代医学とも言われ、患者さんの検査データを重視し、病気の局部を科学的に分析します。血液検査や検査機器などによる客観的なデータを駆使して診断し、局部の病巣を排除することで治療する医学です。しかしながら、原因不明の病気は沢山ありますので、西洋医学の治療だけでは難しい部分もあります。西洋医学は「病気を治す」ことが目的です。
【中医学】
中医学は、中国伝統医学であり、何千年もの歴史があります。人体を一つの整体と考え、自然環境による人への影響も一緒に考えています。体を全体的に調節するという方法が特徴です。中医学は「人を治す」ことが目的なのです。
中医学は、病気の症状を改善すると同時に、発病の原因から根本的に治療することが目的です。また、発病前の段階で調節することで、崩れた身体のバランスを取り戻し、健康を回復するという治療もできます。
【養生方法】
健康を維持するための養生方法は沢山あります。例えば
・食事(薬膳)養生
・季節養生
・睡眠養生
等があります。
中国の中医と日本の中医の違い
━━━大学卒業後、中日両国で仕事を経験されましたが、中国の中医と日本の中医には違いがありますか?
周軍:はい、私は北京生まれで、1983年に北京中薬大学を卒業しました。その後、中医内科の医師として10年間臨床に携わってから来日しました。
【中国の中医と日本の中医の違い】
・中国では、病院の中に西洋医学と中医学の両方があり、患者さんたちは自由に選ぶことができます。
・日本では、西洋医学が主流で、大学で中医学を詳しく勉強することはないです。
・中国では、中医学と西洋医学が2本の柱です。日本では、西洋医学の先生たちや薬局の薬剤師たちが漢方薬をよく使っているものの、あくまで西洋医学が主流です。
私は来日して29年になりますが、この間に中医学は日本でも広がってきました。中医学学院、中医薬膳学院、中医薬研究会なども立ち上がり、これからもっと広がっていくと思います。
子育ては疲れより、楽しさがはるかに大きい
━━━日本で子育てをされましたが、難しかったことはありましたか?
周軍:息子は小学校2年生の時に来日しました。当時はまだ日本語が話せなかったので、学校生活になじめるのか大変心配でした。仕事が終わると、すぐ家に帰って、子供の面倒をみました。来日1年後には息子はだいぶ慣れて、友達もでき、仕事が終わって家に帰るまで児童館で楽しく遊んでいました。中学校時代には、国語の成績が学年で1位になったこともありました。その後は、鹿児島のラ・サール高校に入学し、希望する東京大学にも入学できたので、本当によかったと思っています。
子育ては疲れがあっても、楽しみの方がもっと大きいです。
漢方養生堂を立ち上げる
━━━日本で独立し、漢方養生堂を立ち上げました。そのきっかけを教えください。
周軍:来日後、漢方相談薬局のアドバイザーや日本中医薬研究会の講師として23年間勤めました。その時痛感したのは、日本では何千年前の漢方薬(古方)を使い続けていますが、中国の近代的な新しい漢方は少ないことです。不妊症やメンタル疾患、老人病に対応できる漢方薬を開発したいと思ったのがきっかけで、10年前に新日本漢方株式会社を設立しました。その後、患者さんたちが直接相談できる場所として、付属の漢方養生堂を設立しました。不妊症やメンタル疾患、難病などの方々が気軽に相談に来られます。
━━━漢方養生堂の得意分野について、事例とともに紹介してください。
周軍:漢方養生堂には、3人の中国の中医師と国際中医師の資格を持つ日本人がいます。
【得意分野】
私は、中医不妊症、婦人病、メンタル疾患が得意です。
宋先生は、悪性腫瘍と皮膚病が得意です。
林先生は、小児科循環系疾患、小児科が得意です。
中津先生は、薬膳、漢方養生が得意です。
【事例】
1,【妊娠治療の例】妊娠希望者は大体35歳から45歳の女性が多いですが、病気などの問題はなくても、生理の不順や気持ちの焦りなどが原因で、なかなか妊娠できないこともよくあります。中医カウンセリングを通して心理的負担を緩和し、漢方薬を調節しながら妊娠しやすい体を作ると、その後妊娠できることが多いです。結果に結びついたときは、本当に幸せを感じます。
2,【鬱状態の治療の例】会社を経営する若い男性の方でしたが、会社が上手くいかず、自殺したいと考えていました。カウンセリングと漢方薬を2~3回飲んで回復しました。
3,【悪性腫瘍の治療の例】40代の方でしたが、病院での治療に耐えられずに治療を中止。その後、友人の紹介で、半信半疑ながらも漢方薬を飲み始めました。余命6か月と言われていたのが、今すでに7年間になり、元気で働いています。
頑張れる源とは?
━━━店長として、母親、主婦として頑張れる源はなんですか?
周軍:私は医学が専門なので、普段仕事は忙しいです。息子が小学校を卒業するまで、遅くまで残業がある時は、息子のことがとても心配でした。しかし、病気で苦しむ人たちを治療し、助けられることに幸せを感じています。中医学を選んだ以上、これは私の宿命だと思います。
中医学は中国独特の伝統医学であり、自分にとっても、家族・友人にとっても、また苦痛を負う人たちにとっても必要です。
中医学を勉強するために、福岡、神戸、広島、四国、ソウルなどの方々も毎月1回飛行機で東京にこられ、私の講義に参加しています。20代から70代までの受講生の皆さんの熱心さには本当に感動しました。それが私の頑張れる源だと思います。
中医学のコロナウイルスの予防と漢方治療効果
━━━今コロナが猛威をふるいなかなか治らない中、いい予防方法はありますか?
周軍:
【中国武漢で漢方医師6千名が中医学の介入で治療】
去年から新型コロナウイルス感染症が世界的に広がっています。武漢での新型コロナウイルス感染発症後、早い段階から中医学が介入していました。
漢方医師6千名が武漢に集まり、重症患者には各人の体調に合わせて漢方薬を処方し、それ以外の普通の感染者には既成の薬(有名な3薬3方)を投与して治療しました。
健康な人たちには漢方薬を飲ませることで予防をしました。
【漢方治療の効果】
西洋医学の治療効果をアップさせ、重症化する患者は減少。また、漢方治療のみを受けた800余名の患者は重症者0名、死亡者が0名でした。この結果からも、漢方薬の効果は認められています。
【新型コロナウイルスの中医学予防】
中医学では、新型コロナウイルスの予防はマクスや消毒液のほかに、免疫力を高めて、ウイルスの毒素を抑制する(解毒)ことが大切だと考えられています。
【扶正(免疫力を高める)】霊芝、黄耆、冬虫夏草、漢方処方は「玉屏風散」などです。
【去邪(毒素を取り除く)】板藍根、馬歯莧、白花蛇舌草、漢方処方は「銀翹散」などです。
周先生は中医の道を40年近くずっと歩いてきました。医術はもちろん、健康のことならいつも親身になって患者さんの相談に乗ってくれる親しみやすさから、遠い海外からも口コミで先生を頼ってきます。
コロナ禍においても患者さんの治療で休みを削り、時間と精力を注ぎました。先生のお陰でどれ程の患者さんとその家族が救われたか、人望の厚い先生です。
周先生、この度は貴重なお話を頂き、誠にありがとうございました。
問い合わせされる方は、新日本漢方株式会社のホームページをご確認ください。https://snkjp.com/ https://yojyodo.com/。
■ライタープロフィール
名前:姜春姫(きょう・しゅんき)女性
「医職住ラボ」では、グローバルな視点で日本と中国の高齢者が直面する医・職・住の問題を提起し、特に日本に住んでいる外国人の問題を取り上げています。
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