みなさんは「夏至」と聞いて何をイメージしますか。 日中両国の10~20代の複数の人に聞いてみたところ、全員が「一年の中で一番日が長い日」と回答しました。特別何かをするわけでもなく、変わりない1日を過ごすという意見が多かったです。2023年の夏至は6月21日でしたが、梅雨の時期で日照時間の長さを十分に感じることができなかった上に、メディアでもあまり注目されませんでした。
一方中国では、一般的に夏至の翌日である22日からの端午節のほうが注目されています。現代の日本と中国では夏至の印象が薄れてしまっていますが、実はどちらにも興味深い習慣があるのです。
中日両国にとって夏至とはどんな日?
夏至は二十四節気の10番目の季節です。二十四節気とは、古代中国が1年を春夏秋冬4つの季節に分け、それをさらに6つに区切った暦のことを指します。日本では平安時代から使用されるようになり、両国ともに農作業を行う上で重要視されています。ただし、夏至の捉え方について、日中間では多少なりとも違いがあるようです。
日本では「豊作を“願う”」
日本において夏至は、豊作を願う日とされてきました。農作業においては、「田植えは夏至の後に始めて半夏生(夏至から数えて11日目)の前に終わらせる」という目安がありました。そのため、夏至に豊作を願う行事や祭りが行われる地域もあります。たとえば、茨城県大子町では、1191年から続く伝統行事「近津神社の中田植(ちゅうだうえ)」が毎年行われています。
中国では「豊作を“祝う”日」
中国では夏至は豊作を祝う日とされています。夏至は麦を収穫する時期に当たり、厄払いや豊作を祈る上で重要視され、神様と先祖を祀る風習もあります。そのため、中国において夏至の日は祝日となっています。
また、中国では夏至の訪れを象徴する3つのポイントがあります。以下のとおりです。
(1)鹿のツノが剥がれる
(2)蝉が鳴き始める
(3)半夏という嘔吐や咳を鎮める効果がある薬草が成長し始める
日本の夏至の過ごし方
地域によっては今でも親しまれている夏至の風習があります。その一部をご紹介します。
夏至祭(北海道・三重県など)
・北海道当別町では、姉妹都市交流があるスウェーデン・レクサンド市の伝統行事である、集落と子孫の繁栄、夏を迎える喜びを祝う夏至祭が開催されます。
・三重県伊勢にある二見興玉神社では、日の出の光を浴びながら、夫婦岩の前の海に入って汚れをはらう独自の夏至祭があります。今年は4年ぶりに一般参加者120人も参加したとのこと。
タコを食べる:
・関西では、「タコの足のように四方八方に・吸盤の吸着力のように、稲が深く根を張りますように」という願いを込めてタコを食べます。
夏至の時期のたこは栄養価が豊富で夏バテ防止にも効果があるため、スタミナ食としてもってこいですね。
・兵庫県・明石市
ちなみに著者の友人はタコの名産地である兵庫県・明石市の出身。友人曰く、明石では半夏生(夏至から11日目にあたる日から七夕までの5日間)にタコを食べる習慣があり、その付近では半夏生と七夕を記念した夜市が開催されるとのこと。
明石には駅前に「魚の棚」という海鮮系で有名なお店が集まる商店街があるので、お近くに行く際は是非ともお立ち寄りください。
小麦餅・半夏生餅を食べる:
・奈良県では、小麦と餅米を半量ずつ混ぜて作られた半夏生餅を食べる風習があります。
半夏生までに田植えを終えないと秋の収穫が半減してしまうといわれたことから、無事に田植えを終えて、感謝をする行事として食べられるようになりました。
・奈良県は小麦の収穫量こそ全国30位(令和4年)と多くはないものの、素麺発祥の地でもあり、小麦は農業でも身近な存在だったため、このような風習が生まれたのかもしれません。
中国の夏至の過ごし方
女の人が扇子や化粧品などを贈りあう
古代中国では、体にこもる熱による濁気を発散させたり、あせもの予防として、扇子や白粉・口紅などを女性同士贈り合っていたりしました。
ある中国人の女子学生は、日本に訪れた際に買った扇子を、親しい友人に贈り「夏至の文化も感じられる素敵なお土産をありがとう」と喜んでもらえたとのこと。
冷たい麺料理を食べる
「冬至餃子、夏至面(冬至に餃子、夏至に麺)」という言葉があるように、夏至には麺を食べるとされています(日本と同じように、冬至の食文化ほど有名ではないようです)。新麦が収穫されたばかりの夏至に麺を食べる風習は、初物を食べるという意味もこめられています。体を冷やすために、一度茹でた麺を水で洗って冷やして食べます。陽春麺や三鮮麺、炸醤麺(ジャージャン麺)など、地域によって味付けは様々です。
その他の食文化
西北地方では、小麦の害虫予防の意味を込めてちまきを食べたり、江苏や无锡では「夏にワンタンを食べ、冬に団子を食べると、1年無事健康で夫婦円満に過ごせる」とされ、ワンタンを食べたりします。
以上、今回は日中における夏至の文化を一部紹介しました。
現代では、忙しい生活や文化の変化により、夏至の意味や楽しみ方が薄れてしまっているかもしれません。しかし、伝統や独自の風習を大切にしながら、日中両国において現代ならではの夏至を楽しむことができるのではないでしょうか。
【参考】
夏至の意味とは?夏至の風習・子どもと楽しく過ごす際のアイデア
伊勢・二見興玉神社、4年ぶりの「夏至祭」 夫婦岩の間からご来光